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【発明の名称】ディスクブレーキパッド用裏金およびその製造方法
【特許権者】
【識別番号】300064423
【氏名又は名称】長谷川 務
【住所又は居所】埼玉県北本市西高尾5−253
【代理人】
【弁理士】
【識別番号】100075199
【氏名又は名称】土橋 皓
【発明者】
【氏名】長谷川 務
【住所又は居所】埼玉県北本市西高尾5−253
【請求項1】
平板状の表面と裏面との両板面において対向する位置に形成され、同一板面上では互いに隣接する一部を重ね合わせて多数個形成された球面状の窪みと、
この窪みに囲まれた位置の上端面が前記板面と面一になる平坦部と、
前記窪み同士の重ね合わせ箇所には前記平坦部よりも低く前記窪みの底部よりも高く形成された平面形状が直線状で側面形状が内側に凸となる曲線状の境界上端部を有する境界部とを設け、
前記窪みの大きさは、板面上で直径が8mm、深さが0.3〜1.5mmで、
前記窪み同士の重ね合わせ箇所の面積の占める割合を前記板面上の総面積比で20%以下とし、
前記平坦部の頂部における一辺の長さを約1mmとした
ことを特徴とするディスクブレーキパッド用裏金。
【請求項2】
成形素材である板材の外周を囲繞する金型を使用してプレス加工するコイニングにより板材を冷間加工して、請求項1に記載の窪みを形成したことを特徴とするディスクブレーキパッド用裏金の製造方法。
【請求項3】
凸凹を形成したローラを板材に押圧するローラ圧延法により請求項1に記載の窪みを形成したことを特徴とするディスクブレーキパッド用裏金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両または産業用機械等に取り付けられるディスクブレーキに設けられ、ブレーキパッドに用いられる摩擦材のロータ非当接側で摩擦材を押圧自在に支持するディスクブレーキパッド用裏金およびその製造方法に関するものである。
【従来の技術】
ディスクブレーキは、シングルシリンダの場合、図13に示すように、ディスクロータ(以下、単にロータという)1の周辺部を挟んでブレーキパッドを形成する摩擦材2,2とそのロータ非当接側の面に密着した裏金3,3とを配設し、一方の裏金3の摩擦材密着側と反対側の面にブレーキピストン(以下、単にピストンという)4の端面を当接し、このピストン4を内嵌したシリンダ5とキャリパ6とを、キャリパ6の上端部をロータ1の外周側を架け渡すようにして接続し、キャリパ6のロータ側の面には他方の裏金の背面を密着して固定している。
シリンダ5の内周面には、圧油漏止め用のシールリング7を嵌め込むシール溝5aと、ピストン・シリンダ間の防塵用シールとしてのダストブーツ8を嵌め込むシール溝5bとを刻設している。
裏金3には、図14に示すように、鋼板をプレス等で打ち抜くことにより、表面と裏面とが平面で有り孔3dを有する所定の裏金形状に形成したものか、または、例えば特開平4−224324号公報または特開平11−063042号公報に記載されているような、摩擦材2との間の接合面に凹凸模様またはディンプルを有するものがあった。
〔問題点〕
従来のディスクブレーキ用の裏金3は、押圧に耐える強度を要求されているため、通常、平板状の鋼板が使用されている。
この裏金3が変形すると引摺りやブレーキノイズ、ブレーキフィーリングの低下等を生ずる。また、裏金3の材質により変形を生じさせないようにしようとすると高価な材料を使用しなければならない。
一方、裏金3の押圧面は、ピストン4に接触しているため、摩擦部で発生した熱は、裏面からピストン4を通してブレーキ液に伝わり、ブレーキ液の温度を上昇させ、極端な場合には、ベーパーロックを引き起こすことがあった。このため、特殊な用途の場合には、ブレーキ液の過度な温度上昇を防ぐためにピストン4と裏金3との間に断熱材を挿入する等の対策を採る必要がある。
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の技術における前記問題点に鑑みて成されたものであり、その解決のため具体的に設定した課題は、裏金を特殊な材料に依存することなく曲げ強度を向上し、挿入物等を付加することなく放熱容易となり、ブレーキ液の温度上昇を抑えることができるようにしたディスクブレーキパッド用裏金およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
前記課題を効果的に解決できる具体的に構成された手段である本発明における請求項1に係るディスクブレーキパッド用裏金は、平板状の表面と裏面との両板面において対向する位置に形成され、同一板面上では互いに隣接する一部を重ね合わせて多数個形成された球面状の窪みと、この窪みに囲まれた位置の上端面が前記板面と面一になる平坦部と、前記窪み同士の重ね合わせ箇所には前記平坦部よりも低く前記窪みの底部よりも高く形成された平面形状が直線状で側面形状が内側に凸となる曲線状の境界上端部を有する境界部とを設け、前記窪みの大きさは、板面上で直径が8mm、深さが0.3〜1.5mmで、前記窪み同士の重ね合わせ箇所の面積の占める割合を前記板面上の総面積比で20%以下とし、前記平坦部の頂部における一辺の長さを約1mmとしたことを特徴とするものである。
これにより、球面状の窪みの周囲に平面形状が略正四角形を形成する境界部が囲繞して、裏金の全面に断面形状を波形にする窪みが形成されるとともに、裏金の境界部が両面の同じ位置に突出して境界部による補強効果を高めて裏金の曲げ強度を高め、裏金が同程度の強度では相対的に軽量化され、さらに溝刻設残余部である平坦部に当接したピストンと裏金の板面との接触面積を減少するとともに板面とピストンとの間に空隙を設け、この各空隙には各窪みの境界部を介して空気を流通させて放熱を容易にし、ピストン側への熱伝達量が減少してブレーキ液の過度な温度上昇を防止する。
また、請求項2に係るディスクブレーキパッド用裏金の製造方法は、成形素材である板材の外周を囲繞する金型を使用してプレス加工するコイニングにより板材を冷間加工して、請求項1に記載の窪みを形成したことを特徴とするものである。
これにより、板面に冷間で窪み加工を施すことによって板材が加工硬化されるとともに互いに隣接する窪みの間に形成された境界部が補強部材となって曲げ強度を向上し、裏金の板厚を増加させることなく曲げ強度が向上する。また、板面の全面に施す窪み加工によって、窪みに囲まれた平坦部と窪み同士の重なり箇所に形成された境界部とが所定の形状に形成されて、裏金の断面が連続した波形を呈し、裏金とピストンとの接触部が全面で密着することがなくなり、窪みの周囲を囲む各境界部と平坦部とによりピストンの当接箇所が限定されるとともに境界部の凹みにより各窪みの間を連通する空隙ができて、この空隙を介して空気が流通できるようにして放熱を容易にし、ブレーキ時に発生する摩擦熱が裏金を介してピストン側へ伝えられる熱量を抑え、ブレーキ液の過度な温度上昇を抑制することができるようになる。
また、請求項3に係るディスクブレーキパッド用裏金の製造方法は、凸凹を形成したローラを板材に押圧するローラ圧延法により請求項1に記載の窪みを形成したことを特徴とするものである。
これにより、ローラにより押圧された板材は金属組織が塑性流動して変形し、所定の大きさの窪みを有する裏金が成形される。
【発明の実施の形態】
本発明における以下の実施の形態では、窪みが裏金の両面に形成され、各窪みが対向する位置に形成されている場合について説明する。ただし、従来技術において説明した部分と同じ部分については、この実施の形態においても同一符号を付して説明を省略する。
なお、この実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるため具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。
〔構成〕
この実施の形態に係るディスクブレーキパッド用裏金は、図1に示すように、裏金3の表裏両面に、球面状に凹んだ窪み3aを、各窪み3aの中央部の位置を略等間隔にして多行多列に並べるとともに隣合う窪み3aの接する箇所には互いに球面の一部を重ねた境界に形成される内側に凸となる曲線状の境界上端部が位置するように配設して多数個形成する。
この窪み3aの周囲には、図2,3に示すように、球面が交わることにより形成される断面形状が内側に向けて凹む湾曲線(円弧)を描くとともに平面形状が直線状になる上端部を有する境界部3bと、窪み3aの周囲を囲む境界部3bの四隅に相当する位置に4つの窪み3aに取り囲まれて取り残された板面と面一になる平坦な上端面を有する球面窪み刻設残余部(以下、平坦部という)3cとが設けられる。
窪み3aの周囲に形成される各境界部3bは、四隅を除き略正方形となる格子模様状に平面形状の上端部が形成され、そして、各境界部同士の接続部となる四隅には、上端が板面と面一になる平坦な面を有し、側面形状が内側に湾曲した曲面となり下方に広がる略台形状の平坦部3cが形成される。
このようにして各窪み3aが隣合う窪み3aとの境界部3bと平坦部3cとから取り囲まれることにより、1つの窪み3aを取り囲む複数の平坦部3c,…,3cと複数の境界部3b,…,3bとの全体が、1つの窪み3aを取り囲む全ての隣接する窪み3a,…,3aとの境界となる。
そして、このような窪み3aを、図4(A)に示すように、裏金3の表裏両面で対向する位置に形成すると、境界部3bが両面で同じ位置に突出する。
また、裏金3の所定の箇所には、図1に示すように、表裏両面に貫通する有り孔3dを穿設する。
形成される窪み3aの最深部の深さは 0.3〜1.5 mmの範囲が好ましい。深さが 0.2mm以下では補強効果がなく、1.5 mmを超過するようでは裏金の加工歪みが発生して矯正可能な範囲を越えるようになるからである。
例えば、縦 58 mm×横 119mm×厚み 5mmの裏金3に、7 行 17 列の窪み3aを形成する場合では、窪み3aの大きさは、板面における円3e(図3参照)の大きさが直径 8mm、深さが球面の最深部で約 0.5mm、境界部3bにより形成される略正方形の大きさは一辺の長さが約 7mm、境界部3bの四隅に形成される平坦部3cの頂部の大きさは対辺の長さが約 1mmとなる。
裏金3となる板材に窪み3aを加工することにより、加工前には図2(c)に示すように任意の方向を向いていた金属材料の粒子方向が、加工後には図2(E)に示すように粒子方向が厚み方向に潰されて長手方向に揃うようになり、窪み加工による加工硬化と合わせて機械的強度を高くする。強度が増したことにより、同じ強度を確保するためには裏金3の厚みを薄くすることができ、軽量化が期待できる。各窪み3aの境界部3bが盛り上がり部分として形成されて表面に凹凸が連接するため、曲げ荷重に対して境界部3bを形成する盛り上がり部分が補強材の役割を果して強度を高める。また、図5に示すように、ピストン4の押圧部4aとの間に境界部3bの凹部が隙間を形成し、当接箇所が平坦部3cに限定されるから、ブレーキをかけた時に発生する摩擦熱が裏金3を介してピストン4側へ流れる量を抑えるとともに放熱を容易にし、ブレーキ液の過度な温度上昇を抑制する。
〔製造方法〕
この裏金3の製造には、コイニング法を適用する。
裏金3を形成する材料には、鋼材、アルミニウム合金等が用いられ、鋼材は安価であって強度が高いため、特に好ましい。
コイニング法により裏金3を製造するには、図6に示すように、コイニング加工用の上型21と下型22とに窪み3aとは凹凸が逆の突起部21a,22aを突出したコイニング加工用の金型を形成し、この金型の上型21と下型22との間に窪み加工前の裏金3をセットし、上型21を下型22に押し付けて型押しする冷間加工を行うと、突起部21a,22aが押し付けられた位置に窪み3aが形成され、所定の窪み3aを設けた裏金3が成形される。
この窪み3aを形成する突起部21aと突起部22aとは、断面形状が外側に凸となる球面を有し、各球面は互いに隣合う球面と一部潰し合って接するように形成し、その境界は平面形状が直線状になる。また、その境界の四隅に相当する位置には、押圧時に板面に当接することのない深さの穴を穿設して、球面刻設時には各窪み3aが形成されるときに四方を窪み3aで囲まれるようにして残される残余部が形成されるようにする。
互いに隣合う突起部21aまたは22aの球面が潰される部分は、板面上に形成される円の面積に対して、周囲を囲むそれぞれ隣合う4つの突起部21aまたは22aの球面により形成される板面上の円が周上均等な4ヶ所に重複部がある場合に重複部の面積が占める割合が、平面上の総面積比として 20 %以下の程度でオーバーラップするように成形することによって形成される。
〔作用効果〕
このように構成した実施の形態においては、窪み加工前の裏金3を冷間加工して窪み3aを形成する時、加工時に塑性流動するとしても、金型により変形が制約されるため、材料が逃げ場を失い、圧縮されて硬化し、強度が高くなる。
裏金3の材料が鋼板 SPHC-P の場合、加工前の材料のオリジナル曲げ強度は 50 kg/mm2 、オリジナル硬さはHv150 であったが、加工後に、窪み3aが両面で対向する位置に、窪み深さ 0.5mmに形成した裏金3では、曲げ強度が 67 kg/mm2 、硬さがHv210 となり、機械構造用炭素鋼 S 45 C におけるオリジナルの曲げ強度と硬さに達した(図7,8)。
また、裏金3の材料が鋼板 S 45 C の場合は、加工前のオリジナル曲げ強度は 64 kg/mm2 、オリジナル硬さはHv195 であったが、窪み3aが両面で対向する位置に、窪み深さ 0.5mmに形成した裏金3では、加工後には曲げ強度が 82 kg/mm2 、硬さがHv275 となった(図7,8)。
これらの結果、曲げ強度でおよそ 1.3倍、硬さでおよそ 1.4倍強化されたことが分かる。また、裏金3を形成する場合には窪みなし裏金が板厚 6mmで形成されるところ、同程度の強度で窪み付き裏金3が 4.5mmで形成することができ、 25 〜 30 %軽量化できるようになる。
ピストン4側への熱伝導の影響を、図9に示すような温度上昇測定装置により測定して調査した。
この温度上昇測定装置は、 500℃に加熱された熱盤31に、熱伝導性の良いセミメタリック材パッドからなる摩擦材相当の供試パッド32を載置し、その上から裏金3を載置してディスクブレーキにおける形態を模した配置状態を形成し、裏金3の上面に接触型表面温度計33を取り付け、その計測結果を記録計34によって記録するようにした装置である。
この装置による計測結果を図10に示す。この結果、本発明品は従来品よりも温度が低くなっている。
さらに、フルサイズブレーキ試験機を使用して、実車のブレーキ諸元により、実行したブレーキ回数に応じたブレーキ液の温度上昇を測定した。
試験条件は、試験機の慣性モーメントを 7.5kgf・m・s2 、ブレーキ初速度 150km/h、終速度 50 km/h、減速度 4.4m/s2 の抑速ブレーキを繰り返し加えたものである。
この結果を図11に示す。この結果より、本発明品は従来品よりもブレーキ液の温度が低くなった。
通常、ブレーキを繰り返し使用した場合、摩擦材2,2とロータ1との間に発生した熱が次第に裏金3を加熱し、裏金3を介してピストン4を加熱し、最終的にはピストン4に力を加えるブレーキ液を昇温して、著しい場合にはブレーキ液が沸騰し、いわゆるベーパロック現象を起こしてブレーキが全く効かなる状態が発生するが、図11に示すように、本発明品では従来品がブレーキ液の沸騰を起こしたブレーキ回数を越えても、なお、ブレーキ液の沸騰を起こさず、正常に機能している。
〔別態様〕
以上の実施の形態および実施例は、発明の趣旨を理解しやすくするため具体的に説明しているが、発明内容を限定するものではないから、特に説明されていない別の態様を制限するものではなく、適宜変更しても良い。このような意味で発明の趣旨に沿ういくつかの別態様を以下に示す。
〔第1別態様〕
図3(B)に示すように、裏金3の両面に形成される窪み3aのピッチをずらして形成する場合、曲げ強度と硬さは、図7および図8に示すように、オリジナルの曲げ強度および硬さと、前記実施の形態における裏金の両面で対向した位置に窪み3aを形成した場合の曲げ強度および硬さとの、中間的な曲げ強度および硬さを有するものとなる。
〔第2別態様〕
通常、裏金3は複数の有り孔3dを穿設しているが、図12に示すような、有り孔3dを省略した裏金3を形成する場合、裏金3に連続した多数の窪み3aを設けたことにより、裏金3と摩擦材2との接触面積が増加するとともに境界部3bによる補強効果による曲げおよび剪断強度等の向上によって、有り孔3dを省略することができる。
有り孔3dがなくなった分、裏金3の強度が増すことになり、また、ブレーキ使用時に発生し易い歪みが減少し、ロータ1との接触性を改善して効力の安定性を増し、ブレーキノイズを減少させる効果を生じる。特に、加工硬化および境界部3bの存在により、従来品よりも曲げ強度がおよそ 50 %は向上する。
また、有り孔3dを設けないことによる効果として、摩擦材2と裏金3との間の錆防止効果が期待できる。すなわち、有り孔3dのある裏金3を使用している場合、ブレーキ使用中、雨水等の水分に触れ、多孔質な摩擦材2と裏金3に形成されている有り孔3dの間を通して接着部に水分が進入して鉄製裏金に錆を発生させ、接着強度の低下を招き、摩擦材2と裏金3との剥離が生じることがあるが、有り孔3dを設けない裏金3を使用することによって、このような不具合を解消することができる。
〔第3別態様〕
製造方法としてローラ圧延法を適用した場合、金型の代わりにローラに凹凸を形成し、その凹凸を有するローラを板材に押し付けて板材側に所定の凸凹を形成する。この場合、上下ローラにより押圧されて、板材の金属組織は塑性流動して変形し、所定の大きさの窪み3aを有する裏金3に成形することができる。
〔第4別態様〕
これらの別態様の他に、さらに他の別態様としては、窪みの形状が厳密な球面に限定されず、他の形状の窪みであっても、丸みを有して窪みの重なる部分が互いに凸状の位置で重ね合わせが生じるものであれば、その境界部で内側に凸となる境界上端部が形成されるので適用可能であり、任意の丸みを有する窪みであっても差し支えない。
【発明の効果】
以上のように本発明では、請求項1に係るディスクブレーキパッド用裏金では、平板状の表面と裏面との両板面において対向する位置に形成され、同一板面上では互いに隣接する一部を重ね合わせて多数個形成された球面状の窪みと、この窪みに囲まれた位置の上端面が前記板面と面一になる平坦部と、前記窪み同士の重ね合わせ箇所には前記平坦部よりも低く前記窪みの底部よりも高く形成された平面形状が直線状で側面形状が内側に凸となる曲線状の境界上端部を有する境界部とを設け、前記窪みの大きさは、板面上で直径が8mm、深さが0.3〜1.5mmで、前記窪み同士の重ね合わせ箇所の面積の占める割合を前記板面上の総面積比で20%以下とし、前記平坦部の頂部における一辺の長さを約1mmとしたものであるから、裏金の境界部が両面の同じ位置に突出して境界部による補強効果を高めて裏金の曲げ強度を高め、球面状の窪みの周囲に平面形状が略正四角形を形成する境界部が囲繞して、裏金の全面に断面形状を波形にする窪みが形成され、成形された裏金では鋼板の場合で曲げ強度が1.3倍、硬さが1.4倍強化される等強度が高くなり、裏金が同程度の強度では相対的に軽量化され、さらに溝刻設残余部である平坦部に当接したピストンと裏金の板面との接触面積が減少するとともに板面とピストンとの間に空隙が形成され、この各空隙には各窪みの境界部を介して空気を流通させて放熱を容易にし、ピストン側への熱伝達量が減少してブレーキ液の過度な温度上昇を防止することができる。
また、請求項2に係るディスクブレーキパッド用裏金の製造方法は、成形素材である板材の外周を囲繞する金型を使用してプレス加工するコイニングにより板材を冷間加工して、請求項1に記載の窪みを形成したことにより、板材表面が加工硬化されるとともに互いに隣接する窪みの間に形成された境界部が補強部材となるため裏金の板厚を増加させることなく曲げ強度が向上し、また、板面の全面に施す窪み加工によって、窪みに囲まれた平坦部と窪み同士の重なり箇所に形成された境界部とが所定の形状に形成されて、裏金の断面が連続した波形を呈し、裏金とピストンとの接触部が全面で密着することがなくなり、窪みの周囲を囲む各境界部と平坦部とによりピストンの当接箇所が限定されるとともに境界部の凹みにより各窪みの間を連通する空隙ができて、この空隙を介して空気を流通できるようにして放熱を容易にし、ブレーキ時に発生する摩擦熱が裏金を介してピストン側へ伝えられる熱量を抑え、ブレーキ液の過度な温度上昇を抑制することができる。
また、請求項3に係るディスクブレーキパッド用裏金の製造方法では、凸凹を形成したローラを板材に押圧するローラ圧延法により請求項1に記載の窪みを形成したことにより、ローラにより押圧された板材は金属組織が塑性流動して変形し、所定の大きさの窪みを有する裏金を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るディスクブレーキパッド用裏金を示す説明図であり、(A)は正面形状を示す外観図、(B)は(A)におけるA−A矢視図、(C)は(A)におけるB−B矢視図である。
【図2】同上ディスクブレーキパッド用裏金を示す拡大説明図であり、(A)は一列に並べられた窪みの形成過程を示す平面説明図、(B)は多列に並べられた窪みの形成過程を示す平面説明図、(C)は窪み形成前における裏金の金属組織の並び方を示す断面説明図、(D)は窪み形成状態を示す拡大断面説明図、(E)は窪み形成後における金属組織の並び方を示す断面説明図である。
【図3】同上ディスクブレーキパッド用裏金の窪み形成状態を示す斜視断面説明図である。
【図4】同上ディスクブレーキパッド用裏金における窪み加工後の断面説明図であり、(A)は窪みが両面で対向している場合を示す断面説明図、(B)は窪みが両面でピッチがずれている場合を示す断面説明図である。
【図5】同上ディスクブレーキパッド用裏金における裏金表面とピストンとの接触状況を示す概念説明図である。
【図6】同上ディスクブレーキパッド用裏金のコイニング加工方法を示す概念説明図である。
【図7】同上ディスクブレーキパッド用裏金の加工前後における曲げ強度を示すグラフである。
【図8】同上ディスクブレーキパッド用裏金の加工前後における硬さを示すグラフである。
【図9】同上ディスクブレーキパッド用裏金の温度上昇試験装置を示す概念説明図である。
【図10】同上ディスクブレーキパッド用裏金の裏金温度と加熱時間との関係を示すグラフである。
【図11】同上ディスクブレーキパッド用裏金のブレーキ回数とブレーキ液温度との関係を示すグラフである。
【図12】同上ディスクブレーキパッド用裏金の有り孔なしの場合における正面形状を示す外観説明図である。
【図13】従来のディスクブレーキを示す部分断面説明図である。
【図14】従来のディスクブレーキパッド用裏金を示す外観説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面断面図である。
【符号の説明】
1 (ディスク)ロータ
2 摩擦材
3 裏金
3a 窪み
3b 境界部
3c 平坦部
3d 有り孔
4 (ブレーキ)ピストン
5 シリンダ
5a,5b シール溝
6 キャリパ
7 シールリング
8 ダストブーツ
試作写真 
発明者からのメッセージ

 ディスクブレーキパット裏金は、特殊な材料でSAPH-Pを使い車種別に鋼板厚みを3t〜7tと幅広く強度別に使い分けし、材料の厚みごとに在庫となっておりました。
 そこで、共通部品及び厚み統一化が出来ないか、鋼剛性強度を上げる為に考案し互いの表裏に凹凸を重ね施す事により、同一素材強度を向上させることができ、また、反り、曲がり、放熱効果、軽量化、と補強効果も上げる事ができた発明品であります。
《 特徴&性能機能 》
・従来品より曲げ強度を50%向上する。
・素材鋼剛性は両面同じ位置に凹凸を施すことにより板組成強度を得る事ができました。
・放熱目的は、凹凸の空間に空気を流通し冷却効果が得られました。
・鋼剛効果があるため厚みを薄くすることも確認しました。
・補強効果があり曲がり反りがなく設計が楽になります。
三友興産株式会社(内)
〒364-0035
埼玉県北本市西高尾5−243
電話048-591-1617
FAX 048-592-1817
E-mail: sy.hasegawa@zpost.plala.or.jp
長谷川 務
 
【図1】
図1
【図2】
図2
【図3】
図3
【図4】
図4
【図5】
図5
【図6】
図6
【図7】
図7
【図8】
図8
【図9】
図9
【図10】
図10
【図11】
図11
【図12】
図12
【図13】
図13
【図14】
図14
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